カオスに疲弊しない労務チームに「近づいていく」ための理論構築
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カオスに疲弊しない労務チームに「近づいていく」ための理論構築

クラウド労務管理サービスGozalを運営しております、高谷と申します。
労務 Advent Calendar 2020の15日目として発信してまいります。宜しくお願い致します。


予測不能なゲームであることを認識しているか

オセロはルールがシンプルで、順番に1手打つ。
素人でも次の展開を考えて対応するだろう。

一方でサッカーは複雑なゲームだ

・90分間フィールド22人はどこにいてもいい
・どこにパスするか、どこに走るかも常に各自自由
・ファールかオフサイドか審判判断による揺らぎがある
・homeかawayかで移動時間、フィールドへの慣れが異なる
・選手は怪我しているか、コンディションはどうか
・気温、芝生状況、天候、湿度。。などなど

サッカーは、複数の要素が相互に影響を与え合うことによって成立する「無秩序」「不安定」なゲームである。

だからその複雑系なゲームで勝利するためには「予測不能な環境」に対応する必要がある

労務管理はサッカー以上の複雑性を持っている。

・定期的に変わる法令、書式
・性格、価値観、労務理解の異なる社員各位への対応
・変化する経営陣の意識、興味
・入社、退社が日々行われ、新しい仲間へ変わっていく
・労務チームのメンバーの知識、経験の変化
・労務チームに求められる役割の幅と深さの変化
・変化する会社、世の中の方向性と価値観
・社員間、労使間での突発的なトラブル
・その他多様な例外的事象の継続的な発生

労働基準法などの最低限のルールはあるが、前提として予測不能なゲームであることを認識したい。

「予測を可能にすること」を無理して目指さなくてもいい
「予測不能な環境に対応する」チームを作ることがより重要だろう。

という認識を持つことが対カオスに挑むために、最初に持つべき観点とも言える。


戦術的ピリオダイゼーションというメソッド

ポルト大学のビトール・フラーデ教授が発案した理論だそうで。
その理論全ては流石に読み込んでいないけど、少しだけ勉強したなりに簡単に表現するなら

サッカーというカオスゲームで、
勝率を上げるために必要な要素を、
チームに落とし込むための考え方

サッカー界ではペップ・グアルディオラやジョゼ・モウリーニョが採用している点で脚光浴びている。この理論については林 舞輝さんの著書で初めて知った。知りたい方はぜひ。

この理論は、「対カオスにおいて効果を発揮する」という点で、サッカーにとどまらず労務管理にも適用できると考えている。(というかビジネス組織全般に適用可能だと思う)

本記事は「戦術的ピリオダイゼーション」を「労務管理に適用」することで得られる学びを整理したものだ。

戦術的ピリオダイゼーションの説明をしないと、労務管理に応用することはできないので、以下サッカーについて説明している箇所がありますが、あくまで労務管理に応用するためにわかりやすく伝えるものであり、理論を正確に説明する意図はありません。

第1章 カオスゲームの中で管理可能局面の分解

戦術的ピリオダイゼーションは、カオスなゲームで勝率を上げるための考え方である。

最初に重要となるのはそのカオスゲームの中でも、なんとか管理できる領域を把握することだ。

サッカーを例にする。

選手が自由に動きまわり、ボールはどこに蹴ってもいい。
歩いてもいいし、走ってもいいし、滑り込んでもいい。
出場する22名の人間が自由に動く90分間、その1秒ごとの動きについてすべての分岐を追跡した完璧なプランを用意することはできない。

「プランが用意できないから適当に全力で行こうぜ!」では未来はない。

だからこそ、ゲームにおいて絶対変わらない不変の局面を分解して、少しでも科学的に対応できる可能性を高める。

【サッカーにおける4局面】
①ボール非保持(相手チームがボールを保持している局面)
②ポジティブトランジション(相手チームからボールを奪って攻撃に転じる局面)
③ボール保持(自チームがボールを保持している局面)
④ネガティブトランジション(相手チームにボールを奪われて守備に転じる局面)

サッカーは不規則な動きをするゲームではあるが、いつでも4つの局面のどこかに必ず該当する。該当する局面ごとにパフォーマンスを高めることが勝率を高めることにつながる。

闇雲に筋トレしたり、シュート技術を磨くことだけが勝率を高める訳ではない。局面を正しく理解して、その局面ごとに求められる役割でパフォーマンスを高めることが勝率を高める

この理論では、局面ごとにチームとしてのパフォーマンスを高めるための手段として、チームで統一された原則を定める。そして原則に優先順位を設定する。

例えば④ネガティブトランジション局面について3つの原則を定めると下記のようなイメージ。

1. 主原則:ボール保持者への迅速なプレスと周辺スペースの封鎖
2. 準原則:相手をバックパスに追い込む
3. 準々原則:攻撃から守備への精神的な切り替え

まずは優先順位No1の主原則を適用することを考える。それが難しいなら準原則を、さらにそれもダメなら最悪準々原則を実行するという判断を行う。

局面ごとに適用する原則を定めてチームに落とし込むことで、急に局面が発生しても、細かい指示をすることなくチーム一体となったアクションを実行できる。

4局面で原則を設定することがスタートで、チームに刷り込ませ続ける不断のインプット / アウトプット / フィードバックがパフォーマンスを決める。

労務管理における管理可能局面の分解

労務管理でもサッカーと同じ。
業務について全て指示したり、言語化することはできない

相手によってコミュニケーションを変える、
トラブルや例外的な事象に対しては、細かいマニュアルは作り込めない。

またマニュアルに全て書いていても法令・前提ルールなどは変化も激しく、うまくいかないことも多い。

そのため労務管理の大きな局面ごとに、何を重視するか原則を定めて各自が現場で判断する必要もある

労務管理は多岐にわたる業務範囲があり、全ての業務で共通する要素に分解することは非常に難しいが、下記のいずれかに該当するのではないだろうか。

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①リスク検知
②オペレーション構築
③データ収集
④アウトプット生成

不規則で、領域がくっきりしない労務管理という概念だが、原則上記4つのどこかには該当する。この局面ごとに、未知の問題・トラブルが発生しても対応できるように原則を準備することが重要である。

なお①の次は②になるという順番の意味を持つものではなく、状況に応じてやっている業務が4局面のどれかに該当するというだけなので、ご了承ください。

①リスク検知
労務管理において、リスク検知を行うことは重要。リスク検知の局面でクオリティを上げることができなければ、手続き漏れ・法令遵守違反につながる可能性が高くなってしまう。

【リスク検知の例】
・常時50人以上の労働者を使用することになったので、衛生委員会を毎月開催する必要がある。


②オペレーション構築
リスクを解消するために必要なことを業務に落とし込む。問題を解決するまでのプロセスを並べて、再現できるレベルにする。

【オペレーション構築の例】
・衛生委員会のメンバーを募集 => 開催日を決める => 開催日の1週間前にリマインド・アジェンダ送付 => 当日開催 => 議事録作成・参加メンバーに共有 => 決まったタスクを実行 => 次回開催日を決める・・・


③データ収集
オペレーションにデータを乗せる。従業員、社労士、管轄行政機関などから情報を集めて、それを活用していく。

【データ収集の例】
・衛生委員会の運営について他社事例をヒアリング
・産業医から衛生委員会での議題にしたい事項ヒアリング
・従業員、役員から会社の安全衛生上の課題ヒアリング

④アウトプット生成
オペレーションに乗せて収集したデータをもとにアウトプットを作り、検知したリスクを解消する局面。提出書類や判断、細かい処理、発言、提案を含む。

【アウトプット生成の例】
・衛生委員会の議事録作成
・衛生委員会のアジェンダ作成


衛生委員会を例にしたが、労務管理業務は全て4局面に収められるはず。未知 / 想定できないものが対象だったとしても4局面に収まる。

対カオスに各局面で何を優先するべきかを整理しておくと、細かい指示がなくても各個人の判断がチームの求めるものになる。

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第2章 パフォーマンスに影響を与える要素は相互密接である

サッカーにおいて①戦術、②心理状態、③技術 はそれぞれパフォーマンスに影響を与える要素と考えられる。

ただ、それぞれ独立した概念ではない。
相互に密接に絡みあったものと考える。
それが戦術的ピリオダイゼーションの考え方。

・組織で統一された適切な戦術に従うと、いいプレーができる。
・いいプレーをすると、メンタルにいい影響が出る。
・メンタルコンディションが良いとより質の高いプレーができる。

局面ごとにチーム戦術を定める。
戦術に必要となる技術を高める。
技術を安定して発揮できる心理状態を整える。

戦術的ピリオダイゼーションでは4つの局面ごとに戦術を定めて、戦術を効果的かつ効率的に実現するために、技術・心理状態を高めるという考え方を持っている。

技術だけを高めることで、勝率を高めるという視点には立っていないことが重要である。

労務管理でもパフォーマンスに影響を及ぼす要素は相互密接

まず労務管理のパフォーマンスに影響を与える大きな要素を3つに絞ると下記。

- 知識
- 戦術
- メンタル

過去の経験値や他社事例も全て知識に含まれる。労務は知識がものをいう側面はある。

その経験が生きる戦術を採用していることも重要。
どれだけ経験を持った社員がいても、その経験を生かせない謎のルールや経営陣の非合理な判断などがあればパフォーマンスは阻害される。そのような知識を活かすための体制のことを戦術と呼んでおく。

また知識・戦術が整っていても、メンタルがダメージを食らっていると、パフォーマンスは上がらない。

ざっくりいうと年末調整を1,000人分対応した疲弊した精神状態で、答えのない社内トラブルの対応をやりながら、給与計算チェックをしていくとパフォーマンスは落ちる。

必ず精神的な負担を考慮して、回復期間(ターンオーバ)を設計すべき。

戦術がひどい時は、メンタルも下がるし、持っている知識も生かせない。
知識がなければ戦術は生きないし、結果が出ないためメンタルも下がる。
メンタルがひどい時は、何もできないし、知識を習得することにも繋がらない。

何か一つを闇雲に鍛えてるのは効率的ではなく、3つともをケアし続けることで、疲弊せずにパフォーマンスをスパイラルに改善していくことにつながる。

第3章 定義された明確なゲームモデルの共有

ゲームモデルとは、戦い方の方向性を表現する概念。

チームの個々の能力、ファン・顧客が求める期待、組織の掲げる目標、チームのカルチャーや歴史、監督・経営者のビジョンなどによって採用すべき戦い方は影響を受ける。

個々人のプレー、戦術、トレーニング、マーケティング、人材獲得などあらゆるカテゴリのベクトルは、このゲームモデルによって規定される。

例えばスペインの名門サッカーチームFCバルセロナでは、ゴール前を固めて、徹底的に守備を重視して、カウンターを狙う戦い方を原則行わない(最近は知らないけど)。

パスを素早く交換して、守備陣系を揺さぶりスペースを創造してから、数的優位を作ってシュートチャンスを作るゲームモデル。

その戦い方を採用している理由はファンがそれを求めており、チームの伝統として根付いていることが大きな理由の一つでしょう。

そして「ダイレクトのパス交換で数的優位を作り続ける」というゲームモデルを採用しているので、下記のアプローチを行う。

・普段からその戦い方をトレーニングを行う
・ゲームモデルに貢献できる選手を獲得する
・ゲームモデルにフィットする原則を採用する
・ゲームモデルのファンを増やすマーケティングをする

ゲームモデルを軸にして、あらゆる局面の判断に影響を与えていくことで、1秒ずつの動き方に指示を与えなくても、選手、スタッフ、サポーター、マーケターに到るまで、個々がゲームモデルを守った判断を主体的に実行することにつながる

結果として、チームとしてあらゆる局面で統一された方角に進む確率を上げることになる。

労務管理のゲームモデルを設定する

時代・国・会社・顧客などによってどのような労務管理であるべきかは影響を受ける。その会社がどのような会社になりたいか、その目標の達成が実現できる時に労務管理はどのような存在となっている必要があるか

一朝一夕に見えるものではないし、状況によって動く可能性がある。

ざっくりに例えるなら。

スタートアップなど組織として攻めるフェーズの企業だと、結果を出す社員を積極優遇していくこと、自由で結果を出すために最適な陣形を目指すことを考える。労務チームは「社員がストレスなく自由に持ち味を発揮できる環境を作る」という戦い方を採用するかも知れない。

一方で、

金融・銀行などの会社で、信頼と安定を重視する会社では顧客に安心を与え、チームに規律と連携を生み出すことを目指す。そこで労務チームは「チームがより一体となって、連携を取れる環境・規律を重んじる働き方を細部まで一貫する」という方針で進めるかも。

今、自社の労務管理は何を「自分たち流の戦い方(=ゲームモデル)」として捉えているだろうか。

ゲームモデルを明確にしていることで、細かい優先順位を決めることができるようになる。カオス・未知の事象に対して、限られた時間の中で対応する際の指針となる。

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またそこが明確な労務チームは戦略的かつ戦術的であり、労務担当者が疲弊しずらいチームになる確率が高まるだろう。

まとめ

戦術的ピリオダイゼーションの考え方を、労務管理チームに当てはめて考えるという試みを行ってみた。

サッカーにおける戦術的ピリオダイゼーションには様々な理論があるが、カオスゲームでの勝率をあげることに貢献する、わかりやすい3つの考え方を活用した。

・カオスな中で不変の4局面で原則を落とし込む
・パフォーマンスは要素間で相互作用するので全てケアする
・チームとして統一されたゲームモデルを浸透させる

これを労務管理に当てはめてきた。


カオスな中で不変の4局面で戦術を落とし込む

労務管理の業務は①リスク検知、②オペレーション構築、③データ収集、④アウトプット生成の4つの局面に分類される。

それぞれの局面ごとに、原則を複数設定することで、未知/未経験の事象が発生したとしても、チームで混乱せず統一した判断・対応を繰り出すことができる。


パフォーマンスは要素間で相互作用するので全てケアする

労務管理の各局面で重要となるのは、知識、戦術、メンタルの全てを高めることだった。

知識とは、過去の経験・法令の理解度など労務担当者が実際の現場で利用できる個人的な能力のこと。

戦術とは、4局面で何をすべきかをチームで定義が完了して、理解度高く実施する程度のこと。

メンタルとは、知識や戦術を安定的に運用・発揮・向上させるために必要となる精神的態度・疲労度のこと。

これらのどれか一つだけを高めても、継続的にパフォーマンスを出すことはできない。

特にメンタルの問題は無視されがちで、プレッシャーのかかる業務、相談できない案件、他メンバーからの謎の圧力など、我慢して耐え抜く対応に陥らないことが必要になる。


チームとして統一されたゲームモデルを浸透させる

自社の労務管理は何を「自分たち流の戦い方(=ゲームモデル)」として捉えているか。

このゲームモデルを組み立てることができないと、4局面での原則を設計することは難しいし、採用する人も決められないはずだし、採用時に自分たちのことを説明する際に差別化ができない。

「僕らはこういう戦い方をする労務チームです」と明確に言語化することで、他に付随する全てのアクション・判断の礎ができる。

終わりに

正直、サッカーにおける理論を労務管理のチームに適用できるのかどうか、この文章を書いている最中にも疑念があった。そして書き終えた今でもまだ未完成であることは否めない。

カオスな状況など本当は全部言語化できて、すべてをマニュアル化していくこともできるんじゃないか?という意見もおそらくもらうことになるだろう。

ただ、労務管理は範囲も、あり方も前提ルールもまだまだ変化を続けていくことになるので、その時労務担当者が頼ることができるフレームワークを今後も改善していきたいという想いである。

そのためには、批判を恐れずに考え方を積極的に配信して、より優秀で経験豊富な皆様から意見をもらうことが重要だと思います。

最後に、サッカー好きが講じて、偶然戦術的ピリオダイゼーションの理論に出会えた幸運に感謝します。

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