労務担当者を適切に評価する方法を整理しようと試みた
労務担当者の評価はどのように行うべきなのか。
たくさんの労務担当者の方と話しをさせてもらっていて、そして自分自身で労務管理をやっていて思うのは、
「険しい仕事」を「孤独な中」で「回している」ということだ。
労務の特徴①:険しい仕事
「険しい仕事」というのは、ただ「難しい仕事」とはちょっと違っている。
労務の仕事とは、高度な思考・計算処理が必要であるケースもあるけど、大部分は細かなオペレーションと精神的配慮の積み重ねであるということ。
例えば高度な思考・計算処理が必要な労務の仕事とは、
とか、法律とか、ファイナンスとか、オペレーションを混ぜたような領域はそう呼ばれるかもしれない。
だけど、現場ではそうじゃないことがほとんどで、オペレーション領域の業務が非常に多い。
自分だけで完結する業務は少なくて、社員・社労士・会計チームと連携し、動かしていく必要もある。
険しい仕事と呼ばざる得ないだろう
労務の特徴②:孤独な中
「孤独な中」というのはシンプルは話で、労務に関する業務は相談できる人が少ない構造になっている。
「周りの社員がどうすれば幸せに働けるだろうか」ともっとも考えている社員の一人である労務担当者が孤独というのはとても辛いことだと思う。
だけど、構造として孤独な状態になってしまうことになる。
労務の特徴③:「回している」
「回している」という表現は語弊を招くかもしれないけど、現実の労務現場ではミスや誤りがあっても、なんとか帳尻を合わせて仕事をする必要がある。
労務の業務においては、納期があり、スピードが要求される。給与振り込みに遅れること許されないし、各種納付・届出も遅れるわけにはいかない。
だが、納期に合わせるためには、現実には完璧な仕事を行うことができないことが多い。
常に期限内でパフォーマンスを出す必要があり、常に手元にある不確実性を含んだ情報を軸に判断を行う。
そんな状況の中で戦っている全ての労務担当者に幸あれと思うだけではなく、幸を届けるためには何ができるかを常に考えていきたい。
労務担当者がモチベーションが上がる目標とは?
万能の目標はない。
会社規模、フェーズ、ビジネスモデル、カルチャー、株主構成など数多ある変数を考慮した上で、目標設定は作り込まれるべき論はある。
それでも、どのように目標を設定するべきか方針は固めたい。
まず目標を設定するセオリーとして、下記の3つを満たすものでありたいと考える
- 数値で測定できるもの
- 会社利益に貢献するもの
- 本人のモチベーションが向上するもの
まず、数値で測定できる方が良い。達成したかどうか、どのくらいインパクトがあるかを明確にできるし、誰がみても理解できるものでないと労務管理が知らない人に評価されなくなる。
そして会社利益に貢献する指標であるべき。労務の評価が低いとされる理由の一つは、会社の利益に貢献できていないと推定されているから。現実的には、利益に貢献できているかどうかを明確に測定できている会社はほとんどない。
最後に何より労務担当者本人のモチベーションを向上させることが目標においては重要だと思う。労務担当者が何にモチベーションを見出すのかを分析する必要はある。
労務担当者にとって最大の喜びは多くの場合、社員が幸せで、ネガティブな紛争・退職・休職が起こらず、自分で作った仕組み・自分で対応した事案により社員が成長、健康、幸福になっていくことを実感し続けることだろう。
そんなことはわかっている人は多いと思う。
だけど、労務担当者の業務を理解した上で、目標設計を考える時間がある暇な人はほとんどいないと思う。よって、暇な自分が熟考してみる。
本質的に有効な目標とは何か
まず個人的に目標に設定することを避けるべきと思っていることは
- プラチナくるみんを取得する
- 健康経営銘柄に採択される
などで、これは目標ではなく、手段だと考える。
プラチナくるみんを取得することによって、何かの指標が現状より数パーセント改善されるという仮説があることが前提となる。つまり目標は「何らかの指標を数パーセント改善する」という形にして、そのための施策の一つとしてプラチナくるみんがあるというイメージだろう。
目標が本質的でない場合に最もネガティブな影響は、社内の評価が得られないことだろう。
プラチナくるみんを悪くいうつもりはないけど、それを取ることが目的になっていると、それによってどんな利益が会社にもたらされるかを表現できない。
それによって、社内から評価されず、ひいては労務担当者のモチベーションは満たされたない。
目的が本質的であるかどうかを判断する上で、絶対的な判断基準は「会社の利益創造に貢献すること」だろう。これが目的になっていない限り、いかなる目標も周りから評価されない。
語弊を恐れずにいうと労務の存在意義とは「会社の利益を創造すること」でしかない
この単純だが、強力な計算式から逃れることは許されない。プラチナくるみんを何の思考もなくただ取得することで、評価されていてはならない。
労務は収益獲得に絶対に必要な存在である
収益の面で労務側が目標を設定する際にはどのようにすべきだろうか。例えば総務・労務チームが外部から収益を獲得している会社は存在している。
これは労務チームが直接事業を作って収益を生み出すという発想。
確かにこういう発想も必要だと思う一方で、社内組織に貢献して間接的に収益獲得する側面が本懐だと思うので、そこで考えていきたい。
労務チームには会社の情報が集まってきている。社員の働き方、家族構成、給与、昇進昇給、チームごとの離職率・休職率・欠勤率などなど。
これらのデータを利用して高パフォーマーを数値で把握することができる。下記のデータは労務に集まっている。
・売上に貢献しているチーム、人
・残業などが少なく健康的な働き方をしている人
・所属するチームの他のメンバーに無理残業をさせていない人
・所属するチームの離職率が低い人
高パフォーマーが特定できたら、そのパフォーマーにインタビューを実行して、その行動習慣を社内報として配信することができる。
これは全体的な健全な収益獲得能力の向上につなげることができる可能性を秘めており、労務に集積されたデータがなければロジカルに実行できない。
また、逆に入社後うまく成果が出せていない、少し勤怠が不調に陥っている社員を部門を超えて特定して、部門長と連携してフォローアップを行い、ランプタイムを早める、モチベーション向上を高めることも労務しかできないことだろう。
労務担当者は、組織を俯瞰していて全体を把握しているし、その人の個人情報を持っているし、法律・税制・健康にも詳しい(または詳しくあるべき)ので、プライベート・人間関係・トラブル・健康などの相談にも乗れる唯一の存在となりうる。
以上のことからまとめると労務は絶対に収益に貢献できる。
【労務が行える収益貢献の本質】
- 高パフォーマーを分析して、形式知に変換し、組織に伝染させる
- 低いモチベーション社員を特定して、対策を打って活躍路線に戻す
- 業務内外の細かい悩みを解決に導き、モチベーション阻害要因を倒す
【労務が行える収益貢献の目標イメージ】
- 高パフォーマーインタビュー記事の総PV10,000 / 月を目指す
- 離職トレンド社員の復帰率50%超えを目指す
- 社員から受けた相談の解決率50%超えを目指す
労務はコストを削減する最大の戦略基地である
費用面の目標設定について考える。
正直「残業を減らして、人件費をカットする」とか本質ではないのでカットする。あくまで、組織のファンダメンタルを改善することが労務の本懐だ。
例えば、ネガティブな原因による離職率・休職率を削減することは、組織としてより魅力的なチームに近づき、収益獲得能力が高まることを測定する一つの考えだろう。また費用としても下記の損失を削減することができると計算できる。
- 離職社員1名あたりの損失が 800万円
(参照:早期離職問題 特性要因と現実)
- 休職社員1名あたりのコストが442万円
(参照:平均的な企業の休職・離職に関わるコスト)
また、健康経営文脈として「プレゼンティズムによる損失」を測定して改善することで、損失の削減も可能だろう。
腰痛・睡眠・花粉など様々なものがあるので、各項目ごとに施策を打って損失を測定することができるだろう。
【労務が行える費用削減の本質】
- ネガティブな理由による離職率を改善することで、コストを削減する
- ネガティブな理由による休職率を改善することで、コストを削減する
- 健康状態を改善することで、生産性低下による損失を削減する
【労務が行える費用削減の目標イメージ】
- 重点改善部署の離職率の1%の改善
- 重点改善部署の休職率の1%の改善
- 腰痛によるプレゼンティズムの1%改善
収益と費用だけでは測定できない労務の価値
収益と費用の側面で、労務が活躍できる領域というのはじっくり考えるとまだまだあると思う。つまり労務は利益の創造に貢献するポジションであると言うことは重要なことなので、しっかりと宣言したい。
ただ、最大の問題点がある。それはこのままだと、業務の大部分を占めるルーティン業務・オペレーション部分を評価できないことになってしまう。
収益・費用の側面で労務が活躍できることはあるとしても、業務の大部分を評価しないと言うことは、労務を評価しないことになってしまう恐れがある。
そこで労務には収益、費用の次に3つ目の概念を目標に設計したい
それは「信頼」である
労務はもちろん収益、費用に貢献して、会社に利益を創造できるポジションだとは思う。
一方で、他の部署では真似できないほど「信頼」を司る存在であることも忘れてはならない考え方だろう。
信頼とはミスをしないことでも培われるし、社員のミス、把握漏れを把握して修正を促すことでも培われる
年末調整、日々の勤怠申請ひとつづつを取っても、社員がより有利になるようにアドバイスを送り続けることができる。
残業代をちゃんと払う、社員の税金・社会保険料をちゃんと納める、給与を遅延なく払うという、当たり前のことをやり続ける。
在籍者だけではなく、退職者との最後のやりとり、休職中の社員に対する慎重なフォロー、紛争になってしまった社員とのセンシティブなコミュニケーションなどを早く行うこと。
蓄積された細かいデータから社員のモチベーション、状況を嗅ぎ取って、繊細で慎重なケアを行い続けること。
構築されたオペレーションの中で掴んだ、社員の状態に関するほんの少しのヒントを元に、本当に繊細な細かいコミュニケーションを取ることで、信用という概念が蓄積されていき、その「信用」こそ本質的な「会社の居心地のよさ」につながる。
その「居心地の良さ」こそが社員に伝わり、社外にも漏れ出し、愛される会社になっていくのではないだろうか
そしてその役割が本質的に実行できるのは、多くの場合は経営者ではなく、労務担当者しかいない。この「信頼」という概念を、先ほどの収益・費用に追加して目標に据えて、数値化することが大切だろう。
【労務が行える信用構築の本質】
- インフラ業務(給与支払など)の正確性・適時性を高める
- 毎月勤怠データをチェックして社員有利な方向に整理する
- 退職者・休職者・紛争対象者などとのやりとり回数を増やす
【労務が行える信用構築の目標イメージ】
- インフラ業務の遅延率3%以下の維持
- 全社員の総計で「不利控除日数」の10日以下の維持
- 事象認識から1営業日以内の接触率95%以上
労務担当者に求められる万能性
その意味で、労務担当者とはなんと努力が必要な役割なのだろうか。
法律のプロであり、健康のプロであり、人間関係のプロであり、カウンセリングのプロであり、会社内で誰よりも地道に仕事ができる人でなければならないだろう。
その一方で、誰よりも社員のそばにいて、社員のことを考え、社員が結果を出すことを喜び、社員が幸せに過ごすためにできることを尽くす人間でなければならない。
経営者と社員の橋渡しと言われることが多いが、
労務は経営者でもあり、社員でもあり、その橋でもある。
せわしなく往来して、3つの視点で考えていかなければならない
労務担当者は、評価されるべき存在である。他の役割と同じく評価されるべきだ。ただ、どうやって評価したらいいのかわからない組織が圧倒的に多いので、その仕組みを、今回の記事を、見識者の皆様からフィードバックをいただき、発展させ続けて考えていきたい。
いただいたフィードバック随時追加
現場で戦っていらっしゃる皆様からありがたいことにフィードバックをいただいておりますので、随時掲載させていただきます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
労務がどうあるべきか、という議論はみんなでやっていくことで、より情報が流通して、発展していくと思います。ぜひご意見くださると嬉しいです。
そして、この記事を見てくださっている労務担当者の皆さん。
企業を超えてより良い働き方を作るために、学びを共有するコミュニティを運営しています。
労務に関わる方であればどなたでも無料で参加できますので、ぜひ一緒に良い労務を作っていきましょう。
ご覧いただきありがとうございました🙇♂️